芸術回帰論

昨年、ヲノさんのピアノソロライヴでゲストとしてお話をされた、港千尋先生の新刊です。
うれしいことに、手に取りやすい新書です。

芸術回帰論 (平凡社新書)

芸術回帰論 (平凡社新書)

 
港先生の書かれる文章に、すこしはまっています。読みものとしてはまだ2冊目ですが;
帯のコピーには
「人類よ、創る手へ帰れ」
出版社の説明には
「3・11を契機に浮かび上がった現代文明の問題の根源は、理系・文系の文化の乖離にあった。自然科学の暴走を容認してきた社会の在り方を変革するため、芸術の役割を問い直す。」
とあります。
そのとおりの内容なのですが(特に第1章は)、コピーから感じられるような、強い論調の本ではありません。
 
港先生の書かれる文章は、筋がタイトに一本、すーっととおっていますが。
間口がとても広く、その主張の筋は、ときおりかくれんぼしながらふわと章末に再び現れる感じ。(<− 当方の読解力では;)
けして感覚的なわけではなく、かといって、「論」が積まれるわけでもなく。不思議な読感。
イメージが堆積していくような・・・。
 
心に留まったことをメモ:

  • 「理系」と「文系」のあいだにあるコミュニケーションの危機。それら両方にかかわるものとして第三の系「美系」を考える。「愛好すること」が生み出すノベルティの世界。
  • トフラーの「生産消費者(プロシューマー)」という概念と、レヴィ=ストロースの「野生の思考」「プリコラージュ」概念。情報化社会のなかでの、それ。
  • 分断された世界を統合するための「手」としての芸術。
  • 偏在するイメージとモバイル化するイメージ
  • 映像を見ることは映像を生きること。意識と現在の関係は歩行に似る。創造は概念空間の探求と変形。
  • 情報化の発展による究極の点的遠隔性に対する、近隣性の価値。
  • 大都市の祭りはしばしばアートの方法をとる。
  • 文字の物質性。
  • 本という有限の物質のなかにある無限の扉・謎・罠。